本研究は、黒人選挙権研究に白人性研究の分析視角を取り込み、選挙権における人種差別問題の展開を選挙権における白人性構築との関連で考察することによって、アメリカ民主主義の展開を「人種」に即した形で再構成するものである。 本年度は、南北戦争後に成立した「黒人選挙権保障条項」として知られる合衆国憲法修正第15条の意義を再検討するとともに、同条成立直後の黒人選挙権問題の展開を追跡した。 前者に関しては、合衆国議会における修正第15条の策定過程を検討した結果、同条は従来州が排他的に掌握していた選挙権付与権限に連邦が介入し、選挙権における人種差別を禁止した点で画期的な意義を有するものの、黒人選挙権の最終的な保護主体が連邦と州のいずれにあるのかを明確に規定しなかった点で大きな「限界」を有していたことを明らかにした。 後者に関しては、修正第15条の「限界」を補うべく制定された連邦執行法の運用実態を、黒人選挙権の侵害行為が頻繁に発生したサウスカロライナ州を対象にして検討した。その結果、連邦執行法による黒人選挙権保護の試みは南部白人による暴力的抵抗によって妨害されただけでなく、連邦当局による黒人選挙権侵害者の訴追(「クラン裁判」)も合衆国最高裁判所による連邦執行法違憲判決によって失敗に終わったことが明らかになった。これらにより、黒人選挙権は修正第15条の成立にもかかわらず、ただちに有名無実化したという結論を導き出すことができた。以上、南北戦争・再建期を対象にした本年度は、選挙権における白人性が修正第15条によっていったんは解体されたものの、南部側の抵抗によってただちに再構築された事実を明らかにした。
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