本研究は、19世紀アメリカ合衆国の選挙権における人種差別問題を白人性研究の分析視角から考察することによって、アメリカ民主主義の展開を「人種」の観点から再構成しようとするものである。研究の最終年度にあたる平成21年度は以下の2点について研究成果を得た。 その第一は1838年ペンシルヴァニア州憲法の成立過程の研究である。この研究においてはこの憲法で黒人選挙権の剥奪がなされた要因を解明すべく当該期の人種問題の実態を視野に入れながら同憲法制定会議における論議を分析した。その結果、同州における黒人選挙権の剥奪は民衆の白人性構築欲求の高揚を背景にして民主党が黒人票の排除に積極的になった結果であったことが明らかになった。また、その際、州司法部が「黒人=非市民」論を展開して黒人選挙権に違憲判決を下したことがこの動きに法的正当性を付与したことも明らかになった。 成果の第二は1840年代初頭のロードアイランド州における「ドアーの反乱」の研究である。この研究においては選挙権拡大運動を展開したドアー派が黒人選挙権を否定した要因を解明すべく彼らの選挙権拡大論を分析した。その結果、ドアー派の論理には白人の選挙権拡大のためには選挙権から黒人を排除しなくてはならないとする白人性構築論が色濃く反映されていたことを明らかにすることができた。 以上の結果、ジャクソニアン・デモクラシーとして知られるアメリカ民主主義の発展期において選挙権問題は民衆の白人性構築欲求と不可分に結びついていたことが明らかになり、ここにアメリカ民主主義に内在する人種性の起源を見出すことができた。
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