国家の枠組みを越えてクロスオーバーした移民政策の連動と相関性の実態とその要因を明らかにする本研究の実証面として、平成20年度はトランスナショナル・ヒストリーの具体例である1870年代から20世紀初頭にかけての日本人移民についての研究を行った。初期日本人移民についての史料がとりわけ少ないなか、アメリカ側のセンサス資料と日本側の査証などを収集しそれらを照合し、人々がどのようなトランスナショナルな動きをしていたのかを検証した。また、米国センサス局の専門的知見と人種分類変遷が、19世紀後半から20世紀前半までの移民政策上の人種差別的措置に果たした役割について、移民統計、議会資料、個人文書等から検証し、国際シンポジウム等での発表や調査をつうじて関連分野の第一線の研究者とディスカッションを行い、最先端の知見を得た。 これに関連する研究実績としては、平成20年10月にカナダ・オタワで開催された国際シンポジウムにおいて英語による発表を行ったほか、平成20年11月には、移民研究会において研究発表を行った。平成21年2月には松山、神戸において、アメリカから白豪主義下のオーストラリアへとトランスナショナルな移動をした、高須賀譲についての調査を実施した。松山では、高須賀の屋敷跡等での現地調査のほか、図書館での資料収集や末裔の方へのインタビューを行った。この調査をつうじてオーストラリア、日本双方の高須賀の末裔の方から貴重な資料を寄贈していただくこととなり、それらの関連資料の整理と目録を作成した。このようにトランスナショナル・ヒストリーの視座からの移民政策の検証に、移動する人々の具体的なありようを重ね合わせることで、より多面的、立体的な移民政策や移民・移住をめぐるトランスナショナルな歴史像に近づくことができた。
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