本年度は、1960・70年代におけるアメリカ先住民の社会運動について以下の研究を行った。 1.まず、19世紀に先住民が合衆国と結んだ条約、土地収奪への抵抗・虐殺などの歴史的記憶をめぐり、現代の平原部族(スー・シャイアン)が主に1960年代以降、どのような運動を展開したのかを考察した。この内容については、6月の日本アメリカ学会部会にて「記憶の継承にむけて-アメリカ先住民の場合」という題目で報告した。次に、2006年に東京大学大学院に提出した博士論文を加筆修正し、2月に『アメリカ先住民の現代史-歴史的記憶と文化継承-』(名古屋大学出版会)として出版した。同書では、合衆国の国民統合と多文化主義を射程に入れ、エンパワメントに向けたアメリカ先住民の軌跡と政治・文化戦略のかたちを考察した。以上を通じて、1960・70年代の先住民運動が連邦政策や先住民アイデンティティに与えたインパクトとともに、今後、詳細に分析すべき課題を確認した。 2.資料調査としては、研究書や博士論文の収集とともに、マイクロフィルム・フィッシュで購入可能な一部の史料を取り寄せた。また休暇を利用して、米国にて2週間の史料収集を行った。ニューメキシコ大学図書館とカリフォルニア大学リバーサイド校図書館にて、1960・70年代の先住民運動に関する一次資料と先住民団体の記録・機関誌等を閲覧・複写した。 今後は、以上の文献・資料の分析を進めるとともに、さらに現地での資料収集を行う。1960・70年代の先住民運動の歴史的位置と影響について考察を深め、論文を執筆していきたい。
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