研究代表者及び連携研究者は、それぞれのテーマに添いつつ研究を深化させ、可能な限り複数の関連主題にアプローチした。和田光弘は南部の記念碑について引き続き研究を進めるとともに、大陸紙幣や硬貨などの意匠の分析を通じて、アメリカのイメージ形成のダイナミズムを考察した。さらに新旧両大陸をまたにかけたポカホンタス神話の形成過程の解明のため、イギリスのグレーヴゼンド等において調査を行った。森脇由美子は19世紀のニューヨークを中心に、ナショナル・アイデンティティを構成する種々の装置(劇場など)に注目し、その成立過程の分析を進める一方、イギリスとの比較のため、ロンドンにおいて資料収集を行った。久田由佳子は、植民地時代から建国期のニューイングランドやニューヨークを対象として、職人の世界や奴隷墓地の記憶のあり方について、社会史的アプローチからその具体相を析出した。各自の研究成果の検討は和田を中心に随時おこない、相互の連絡を緊密に保った。また、「ヨーロッパ歴史の場に関する研究」(科学研究費補助金・基盤研究(B)・研究代表者・若尾祐司)との共催で、研究会を複数回開催した。主要設備として、研究を進める上で必要不可欠な各種史資料・文献など、必要な関連図書の整備も引き続き行った。具体的には、南部植民地関連図書、19世紀ニューヨーク市史関係図書、建国期ニューイングランド地域史関係図書等を購入整備した。また、収集した史資料の整理等のため、大学院学生1名(名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程2年・笠井俊和)の助力を得た。なお、本研究プロジェクトの成果の一環として、若尾祐司・和田光弘編著『歴史の場--史跡・記念碑・記憶』(ミネルヴァ書房)が来年度前半に刊行予定であり、研究代表者の和田および連携研究者の久田が著した論文を収録している。
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