平成19年度は主に11世紀の南、中部フランスの状況を検討した。1964年に出たH・ホフマンの研究を基本に、1980年前後に出たE・マニュ・ノルティエ、J・P・ポリイ、さらにはC・ロランソン・ロサスらの研究を参照しつつ、運動の具体的な展開と背景を考察した。また、いくらかのオリジナル史料について、ナンシー大学の「中世史料研究所」において調査を行った。 さらに、フランス高等学院のL・モレル教授と、神の平和運動について意見交換を行った。こうした検討の結果、初期の運動の中には司教たちの、カロリング期以来の公的秩序の担い手としての自覚に基づく秩序再建運動と、クリュニー系修道士たちの終末論的な絶対平和運動とが重複していることが分かってきた。前者は当時の慣習法に基づいて秩序を再建しようとするものであって、その限りでは新奇なものではない。また後者は11世紀初めの特異な精神的状況の産物であるが、現実との接点に乏しく、やがては「神の休戦」という一種の儀礼に変形していく。 このように考えると、11世紀30年代から繰り返し出現する「平和民兵」制度は、司教たちのカロリング期以来の権限に基づく秩序維持手段であって、なんら革命的なものではない。これを終末論的な絶対平和思想に結びつけてきた、過去の研究潮流は大きく見直されねばならないなお12世紀南フランスの平和維持制度についても、G・モリニエ、T・N・ビッソンの研究を手がかりに、アウトラインの把握に努めた。これは前者の司教たちの運動の延長上に位置づけられる。
|