研究課題
国際戦争の影響下に生じた政治・社会変動に着目しながら近世ヨーロッパ周縁部における複合的国家編成の変化を分析する本研究は、昨年度実施した海外調査で集積された史料をスウェーデン、スペインそれぞれの理念と制度という側面から分析を進めた。スウェーデンについては、17世紀以降の国際戦争の経験から従来「軍事革命」と呼ばれる分析概念でもって軍制改革に焦点をあてた研究が進められてきたが、この概念をより広い国制改革にまで拡張することで18世紀の大北方戦争以前に「制度としてのスウェーデン」が用意されていたことを日本西洋史学会で報告した。さらに大北方戦争敗北後の国家再編の過程では、時間軸に沿った歴史的系譜と空間軸に沿った自然環境の独特な理解から、バルト海世界を包括する「スウェーデン理念」の再編が進む過程を18世紀に残された旅行記述の分析から検討し、その一端を複数の学会や論文で披瀝した。環大西洋世界に拡がる複合的国家編成を統合する包括的な「理念」の想定が困難なスペインについては、従来の研究においてスペイン本国における農業改革の失敗という点でしか着目されてこなかったエスキラーチェの改革事業に注目し、とりわけ七年戦争後のスペイン帝国再編を目的とした改革の一環としてエスキラーチェに主導された貿易自由化をめぐる改革の過程を子細に検討することから、七年戦争後の環大西洋的状況を踏まえイベリアとアメリカを包括する「制度としてのスペイン」の創出に向かう過程の分析が進められ、その成果の一端は雑誌論文として公開された。以上、実施二年目を経た本研究は、複合的国家編成を束ねる理念・制度の双方の側面から18世紀における国際戦争の経験を踏まえたスウェーデン、スペインの事例を比較することにより、環バルト海世界、環大西洋世界に面した状況からもたらされる差異が明らかになりつつある。
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