本研究代表者は、アメリカ・ポピュリズムの基本綱領である「オマハ綱領」(1892年)に盛られた三大経済綱目である「土地」、「金融・通貨」、「交通・運輸」に関わる要求の歴史的源泉を広く19世紀的文脈の中で、しかも大西洋を挟んだ思想・運動の交流の中に探って来た。「土地」「金融・通貨」に関しては二度にわたる科学研究費補助金の支援を受け、ほぼその解明を終えたので、最後の「交通・運輸」に関わるポピュリストの要求の歴史的起源を探る作業に取りかかった。 ポピュリストは鉄道、穀物エレベータなどの国有・国営を唱えたが、従来そのような要求の起源は南北戦争後旧中西部を中心に展開されたグレンジャー運動がそのルーツであると見なされてきた。しかし、本研究代表者のこれまでの予備的研究によれば、それはさらに時代を遡り、南北戦争前、国道建設や運河開削がさかんに行われた時代にすでに「公道」論、つまり交通・運輸手段は公共の財産であり、私的企業にその運営を委ねるべきではないという議論にまでつながるものであったことが明らかになりつつある。本研究においては、このような見通しのもとに、鉄道を「公道」とみなす思想がポピュリズムまで流入していたことを実証したい。 平成19年度においては、上のような目的のための予備的作業として、いわゆる「長い19世紀」におけるアメリカの土着的政治文化としてのヴィジランティズム(自警主義)の解明を行った。ヴィジランティズムのようなアメリカ的地域自決主義の土壌に根付いた要求の一つが「鉄道=公道」論だったという見通しを立てているからである。このような見地から「ヴィジランティズム・人民主権・国家」(古矢旬・山田史郎編著『権力と暴力』(シリーズ・アメリカ研究の越境2)所収)を書いた。 また、この研究テーマに関連する知見を活かして、『歴史学研究会篇世界史史料7南北アメリカ先住民の世界から19世紀まで』において「労働運動と組織」以下12項目を執筆した。
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