本研究代表者は、アメリカ・ポピュリズムの基本綱領である「オマハ綱領」(1892年)に盛られた三大経済綱目である「土地」、「金融・通貨」、「交通・運輸」に関わる要求の歴史的源泉を広く19世紀的文脈の中で、しかも大西洋を挟んだ思想・運動の交流の中に探って来た。「土地」、「金融・通貨」に関しては二度にわたる科学研究費補助金の支援を受け、ほぼその解明を終えたので、最後の「交通・運輸」に関わるポピュリストの要求の歴史的起源を探る作業に従事している。 ポピュリストは鉄道、穀物エレベータなどの国有・国営を唱えたが、従来そのような要求の起源は南北戦争後、旧中西部を中心に展開されたグレンジャー運動がそのルーツであると見なされてきた。しかし、本研究代表者のこれまでの研究によれば、それはさらに時代を遡り、南北戦争前、国道建設や蓮河開削がさかんに行われた時代にすでに「公道」論、つまり交通・運輸手段は公共の財産であり、私的企業にその運営を委ねるべきではないという議論にまでつながるものであったことが明らかになった。本研究代表者は、このような見通しのもとに、鉄道を「公道」とみなす思想がポピュリズムまで流入していたことを史料によりほぼ確認できた。今後の課題は、この結果を文章化することである。 なお、本年度においては、本研究代表者のポピュリズム研究に多大の影響を与えたエリック・フォーナー『アメリカ自由の物語』(上・下)(岩波書店、2008年7月、8月)を他の三名の共訳者とともに邦訳しえたことは大きな収穫であった。
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