本研究は古代ローマ人の歴史記述と歴史意識に関して、以下の2点の解明を主な課題としている。 (1)アウグストゥスの時代の歴史家ティトゥス・リーウィウスが著した『ローマ建国以来の歴史』の第1デカーデ(第1~10巻)をローマ史学史および伝説史の観点から、共和政末期とアウグストゥスの時代の政治文化との関係にも注目しつつ分析し、ローマ人の歴史意識に関する理解を深める。 (2)本格的な歴史記述が始まる以前、ローマ人社会では過去の記憶はどのようにして伝達されていたのか。この問を集団的な記憶が呼び起こされ、後の世代に伝承されたと考えられる場を中心に考察する。これと並んで、歴史記述が始まる以前から伝わる文字を利用した種々の記録に関しても、史料の証言内容と先行研究の成果を検証する。 これらの作業を通して本研究は、古代ローマ人の歴史記述と歴史意識の特徴を描き出し、過去に関する集団的な記憶が共和政期のローマ社会で持っていた意味について理解を深めることを目指す。
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