本研究は、第三共和政前半期のパリに地方から移住してきた人びとが、宗教や教会とどのような関係にあったのか、その関係が彼らの文化的アイデンティティや政治的アイデンティティにどのように反映されていたのかを検討するものである。 本年度は、昨年度に引き続き、先行研究の整理と史料の収集をおこなった。 本研究のテーマは都市史と宗教史という二分野に関わるため、各々の分野で広く先行研究を渉猟する必要がある。このため、狭義の歴史学に限定されないさまざまな研究書をあたり、史実の確認みならず分析視角のブラッシュアップを試みた。 史料については、8月下旬に約2週間渡仏し、フランス国立図書館およびパリ司教座文書館で史料調査をおこなった。フランス国立図書館では地方出身者向けに刊行されていた新聞を数紙、試験的に閲覧した。パリ司教座文書館では、地方出身者を対象とした活動をおこなっていた団体、地方出身者を対象とした司教座の活動なとについて、史料を閲覧した。その結果、教会は地方出身者の文化的な属性についてほとんど関心を抱いていなかったこと、また、地方出身者自身の刊行する新聞もその点を強調しない傾向があったことが判明した。 この知見は、当時のフランスが言語的・文化的にかなりの多様性を抱えており、パリ社会にもそうした要素が少なからず存在していたことを考えると、意外ともいえる。文化的属性に対する認識や感受性は、1世紀前のフランスの都市社会では、現在とはかなり異なったものだった可能性がある。この点を確認するには、新聞史料の閲覧を進めたうえで、警察文書を参照する必要がある。次年度の課題である。
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