本研究は、第三共和政前半期(1870-1914年)のパリに地方から移住してきた人びとが宗教や教会とどのような関係にあったのかを検討し、それを通じて、彼ら地方出身者の文化的多様性さらには政治意識の調査を目指すものである。 最終年度である本年度は、前年度に引き続き文献・史料の収集および分析をおこない、それにもとづき研究成果をまとめることに努めた。 本課題は都市史と宗教史という二分野に関わるため、各々の分野で広く先行研究を渉猟する必要がある。この点で、今年度も引き続き関連図書を購入して、先行研究の整理を確かなものとした。史料については、3月中旬に渡仏し、パリ警視庁文書館およびフランス国立図書館において、地方出身者の結成した団体に関する史料を閲覧した。 研究の結果、地方出身者の言語的多様性について史料がほとんど言及していないことが判明した。この結果については、言語的多様性がそもそも弱かった、言語的多様性がいまほどは重要視されていなかった、という二通りの解釈が可能である。社会科学の分野でなされた研究に鑑みると、後者の可能性に一定の重みを与えるべきであるといえる。この点については、学術誌『史潮』新66号に掲載した論考、および日仏歴史学会第2回研究大会での報告でも論じたところである。
|