本研究課題は、19世紀末から20世紀前半にかけてのカナダにおける優生思想の展開を、移民問題などと絡めて考察することによって、優生思想が「白人」社会カナダの建設・統合において有益なイデオロギーとみなされたことを描き出すとともに、カナダでの優生思想の普及において英米の影響が交錯していた側面を析出することを目的としている。初年度にあたるH19年度は、以下の3点を実施した。 1 先行研究の整理:本研究の遂行にあたって参考となる研究視角や研究手法を修得するため、イギリス、アメリカ合衆国、ドイツ、日本など、カナダ以外の地域における優生思想の展開を抑えるとともに、精神医学史や優生学史など科学史全般について基礎的知識の理解に努めた。 2 カナダの移民政策・先住民政策に関する考察:当該期のカナダ社会が、イギリス性(ブリティッシュネス)と白人性(ホワイトネス)の重なりあう価値基準に基づき、移民選別や先住民処遇を行っていた点を考察し、イギリス帝国領、かつ北アメリカ社会というカナダ社会の特徴を見出した。 3 1次史料の収集:カナダにて、医療専門職と女性運動家による優生思想等の普及組織であるカナダ精神衛生全国会議(Canadian National Committee for Mental Hygiene)に関する史料を収集し、読解に努めた。現時点では、収集史料は部分的に留まっており、次年度以降、さらなる収集・読解を行なう予定である。 なお、研究成果の一部を論文・学会報告・著書によって公表し、今後の研究の指針を得た。
|