本研究課題は、19世紀末から20世紀前半にかけてのカナダにおける優生思想の展開を、移民社会の問題と絡めて考察することにより、優生思想が「白人」社会カナダの形成・統合において有益なイデオロギーであったことを描き出し、当該期のカナダ社会の「白人性」の在り方を考察することを目指している。2年目にあたるH20年度は、以下の3点を実施した。 1 カナダにおける優生思想の展開に関する長期的考察:優生思想の展開を、19世紀後半から20世紀後半にまで範囲を広げ俯瞰的に考察した。その結果、1930年代にオンタリオ州で優生思想が再び興隆したことの重要性を見出し、断種法制定の有無に関らず、優生思想の浸透を幅広く捉える必要があると判断するに至った。これにより、アルバータ、ブリティッシュ・コロンビア(BC)両州、ないしは西部の政治文化の特異性抽出を目指したこれまでの研究を軌道修正した。 2 1次史料の収集・分析:断種法を制定したアルバータ、BC両州、並びに、同法制定を促したカナダ精神衛生全国会議(CNCMH)に関する史料の収集・分析に努めた。さらに上記1を受け、1930年代にオンタリオ州を中心に優生思想の普及を図ったカナダ優生学協会(Eugenics Society of Canada)の史料の収集・分析を行なった。 3カナダ社会の「白人性」に関する考察:精神障害者(とりわけ精神薄弱者)が当該期のカナダ社会において「中間的存在」であったことを検証し、これを先住民やアジア系移民の処遇と比較し、「白人性」の在り方や「白人」支配の構造を考察した。
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