研究課題
本研究課題では、19世紀末から20世紀中葉にかけてのカナダ社会について、移民政策・精神衛生運動(Mental Health Movement)・優生思想の展開に注目し、「白人」社会の序列化の様相、ならびに「白人」と「非白人」の関係について考察した。最終年度にあたるH21年度は、オンタリオ州のカナダ優生学協会(Eugenics Society of Canada)史料の補充調査を実施したほか、以下の研究総括・展望を行なった。1 「白人」の序列化・差異化の様相の考察:移民の流入に伴い、精神障害者(とくに精神薄弱者)の急増が問題視され、究極的には断種法の制定要求に至った状況を、アルバータ、ブリティッシュ・コロンビア、オンタリオの3州を中心に考察した。当該期、精神薄弱者の急増が「白人」の問題、とりわけイギリス系の問題として扱われていたことを見出すとともに、彼らが、健常と異常の間をさまよう、「白人」と「非白人」の間のグレイゾーンに位置する「『白人』の内なる脅威」とみなされていたことを明らかにした。2 「白人」と「非白人」との境界管理の在り方の考察:先住民インディアンの法的地位を手がかりに「白人」と「非白人」の境界につき考察を行なった。その結果、「白人」支配層は、先住民インディアンに対しては「白人」の文明化を受容させることで彼らの社会の解体を図ると同時に、先住民インディアンとヨーロッパ系の混血であるメイティ(Metis)に対してはインディアン以下の権利しか認めなかったことを明らかにした。このことから、「白人」支配層が、「白人」と「非白人」のそれぞれの領域を引き離すことで、「白人」の領域を確保し、彼らの支配の安定化を図ったのではないかとの見通しを得た。かかる点を実証するには、「白人」と「非白人」の境界領域における生活・交易の規制・管理や社会的制裁といった幅広い社会関係や、規模や歴史性の点で先住民インディアンと並ぶ「非白人」であった中国人移民の処遇についても考慮に入れる必要性を指摘し、今後の展望とした。
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はじめて出会うカナダ(有斐閣)
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