1、シュレーヌ田園都市を対象にした論考「シュレーヌ田園都市の居住空間と住民にかんする一考察」が『年報都市史研究』第16号に掲載された。そこでは1920年代初めに竣工した第1次建設区画に限って空間編成上の特徴を明らかにし、それとの関係において住民構成の検討を試みている。 2、1の論考を踏まえて、シュレーヌ田園都市の1930〜40年代における空間および住民の変遷をとらえるために、現地調査をおこなってデータの収集と整理につとめた。その結果、全体の建設過程を正確に把握することができた。これは、建築計画資料を用いたもので、実際の建設過程と食い違う可能性を完全には否定できないが、先行研究と比較して、格段に信頼度は高いはずである。そのうえで、1930年前後に着工する第5次事業の一部にして田園都市の中核をなす区画に焦点を合わせ、居住空間の編成と住民のあり方をめぐるデータの収集と整理を進めた。 3、両大戦間期パリ地方の都市政策のリーダー、アンリ・セリエとその周辺にかんして、文献、諸史料の探索、収集を進めたが、著作の渉猟やそれにもとづく作業はやや遅れ気味である。 4、近現代史都市史研究の視座や方法の模索を着実につづけた。何よりもまず、20世紀後半の団地やニュータウンを扱う最新の研究にかんして、おおよその見通しがつきつつある。これにも関連して、建築家集団との対話をおこなう目途もついている。なお、フランス史、西洋近現代史の研究入門書の編纂作業を進めたが、本研究を歴史的視野から位置づけ、新たな展望を切り開くという意味で、そこから受ける示唆は無視しがたいものである。
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