(1) シュレーヌ田園都市にかんするデータを渉猟し、改めて建設の過程・住戸タイプなどを確認するとともに、分析対象にする第4次と第5次の建設区画の住民データ(1936、46年)を収集した。ただ、データの分析は今後に残された。他方、田園都市と周辺地区の諸施設(学校・郵便局など)にかんする検討が、田園都市とその住民を考察するうえで、非常に示唆的であることが明らかになった。また、ウイーンを訪ねて1920年代の集合住宅カールマルクスホーフを視察し、本研究をヨーロッパ的文脈に位置づけることの重要性を確認した。 (2) フランス近現代(19世紀初め~20世紀末)における居住空間の変遷を展望する試みをおこない、その成果は学習院史学会講演、および論文「フランス近現代における居住空間の変遷」に結実した。また、JIA建築家セミナーにまねかれて山本理顕・木下庸子と「『1住宅=1家族」システムの限界」というテーマをめぐる鼎談をおこなった。この建築家との交流は長期的に居住空間を考え得る絶好の機会となった。さらに、学習院大学人文科学研究所・第21回談話会の講演「パリ郊外の文書館で考えていること」で、シュレーヌ田園都市を歴史的に研究する意義や将来への展望を提示した。居住環境から近現代都市社会を照射するための視座や方法の形成において、これらは大きな成果であったと考えられる。 (3) 20世紀フランスの都市計画・都市政策にかんする思想・運動の検討作業にはさほどの進展がなかったが、2にとりあげた講演・論文ではこの点にかんしても一定の検討が加えられている。
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