研究概要 |
シュレーヌ田園都市の第1次事業区画にかんする論考(「シュレーヌ田園都市の居住空間と住民にかんする一考察-1926~46年のパリ郊外-」)を公表し,この論考を前提としながら、田園都市の建設過程や住民にかんする調査を進めた。その結果、この田園都市が、第1次事業(1921年の計画)から第8次事業(1949年の計画)まで、8度にわたって住棟・住戸の建設が計画され建設されたことを明らかにした。また、個々の住棟や住戸についても空間のあり方を確認した。 また、シュレーヌ田園都市に生れた社会の全体像をとらえる目的のもと、すでに検討した第1次事業区画との比較をおこなう対象として、第4次事業として建設された戸建て住宅30戸余りと老齢者向け施設、および田園都市の中心部と想定される第5次事業区のなかで祭事場(のちの劇場)を取り囲んで立つ集合住宅6棟を選ぶこととし、当該区画の住棟・住戸の空間を把握するとともに、そこに住んだ人びとのデータを、1926・31・36・46年の国勢調査原簿から取り出した。現在、そのデータをコンピュータに入力中であり、住民分析のとりまとめまでにはもう少し時間が必要である。また、こうした作業のなかで、シュレーヌ田園都市が周囲の社会(シュレーヌ市・パリ地方・フランスなど)といかなる関係を切り結んでいたのかを知る必要を認識したが、そこでは新たな史料の可能性をさぐる必要があった。 居住空間に視座をすえた都市史研究の方法的発展を求め、まず、これまでの研究を振り返って近現代フランスにおける居住空間の変遷を論じた(「フランス近現代における居住空間の変遷」)。他方、書評のなかで、住宅史への視座や方法にかんする見解を表明した(「書評:北村昌史著『ドイツ住宅改革運動-19世紀の都市化と市民社会-』」)。さらに、近現代の都市史・住宅史ではヨーロッパ全体を視野にいれた歴史的展望がはかられていることを踏まえ、また、都市・住宅にかんする学際的論議の必要性を痛感して、イギリス・フランス・ドイツを専門にする歴史研究者を中心にした共同研究を立ち上げ、国際的・学際的に議論を活発化することとした。これまた本研究計画を通じて、筆者が到達した結論の一つである。
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