本研究では、ディアスポラを故国のナショナル、およびローカルな諸組織との間で相互的なネットワークによって接合する国外のエスニック・コミュニティと定義し、とりわけディアスポラのネットワークの相互性、重層性、多拠点性の解明を試みた。時代を第一次世界大戦直後から両大戦間期に定め、東欧諸国のなかでもハンガリーとチェコ・スロヴァキアに焦点をあてて考察した。取り上げた事例は、第一次世界大戦期アメリカ合衆国の移民コミュニティと本国との関係、アメリカの東欧移民の市民権とディアスポラの関係、本国の政治変動に伴うチェコ系移民コミュニティとスロヴァキア系移民コミュニティとの関係、トリアノン講和条約修正運動へのディアスポラ社会の関与についてである。これらの事例研究を通して、ディアスポラ社会が本国とホスト国の政府と地域社会に対して政治的影響力を行使する主要なアクターであることを示した。そして、国境を越えた領域において政治的変革の意図が模索・実行され、社会システムと人々の紐帯が再編される近代史の一側面を明らかにした。
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