平成20年度は、まず昨年度より取りかかっていたギリシアポリス間の外交のあり方について、5月に開催された第58回西洋史学会大会西洋古代史部会小シンポジウムの基調報告において互酬関係とエヴェルジェティスムに焦点を当てて論じた。この報告をもとにした論考は、現在投稿中である。 8月、および9月には、2回にわたり、ギリシア、トルコでの現地調査、博物館所蔵の碑文調査、およびイギリスで博物館調査と資料調査・収集をおこなった。聖域を中心とするポリスの公共空間に残る石碑建立の痕跡を検分することが第一の目的で、ギリシアの2博物館、大英博物館の3カ所に分散所蔵されているエリュトライに関するアテナイの決議碑文について一時期に集中して調査することが第二の目的であった。後者については3博物館での精査と過去の拓本、およびノートにもとつくデータの整理が終わりつつあるところで、平成21年度中に論文として投稿する予定である。 年度を通じて、古代ギリシアの外交をめぐる政治文化の考察の視角として、石碑建立による建立主体と対象との相互関係とその関係の可視化をめぐる問題に焦点を当ててきたが、その基礎的な検討として、古代ギリシア人が可視化された言葉=文字に見出していた宗教的な力について、平成21年6月に開催される西洋古典学会のシンポジウムで報告する予定である。また、石碑建立という行為によりつくり出される建立の主体と対象との相互関係、およびそれによってつくり出された公共性を帯びた関係性については、平成21年5月に開催される歴史学研究会大会合同部会で報告する予定である。
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