平成21年度は、アテナイの中心聖域であったアクロポリスが、主要な碑文の建立場所としてどのように利用されていたかについて通時的に考察することを試みた。とくに顕彰碑文と奉納碑、奉納物に関する記録とそれぞれの関係、さらに公的な表現方法と私的な表現方法との関係についての分析を行った。8月、9月に現地、および博物館に所蔵された関連碑文の検分をおこなうためにギリシア、イギリスに出張した。 5月には全体を概観につながる報告「古代ギリシアの石碑-関係性の記録と記憶の共有」を報告し、また6月にはより広いパースペクティヴから文字に記録する意味についての考察「文字と社会」をそれぞれ歴史学研究会大会、西洋古典学会で報告した。学会報告をもとにした論文はすでに公表されている。さらに新アクロポリス美術館に関するエッセイをしたためた中で、奉納行為の意味について論じた(地中海学会月報326号)。 年度後半は、デロス同盟期のアテナイとデロス同盟国との関係を碑文成立のコンテクストを明らかにすることから検討を進める作業にもとりかかり、これについては平成22年5月にアテネで開かれる研究集会で報告する予定である。
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