平成20年度の春学期には、5月中旬に米国ブラウン大学のJohn Carter Library主催で行われた「初期アメリカ史研究の現状」に関するシンポジウム及び円卓会議に出席し、研究についての意見交換を行った。帰国途中にフィラデルフィアに立ち寄り、全米最古の図書館であるLibrary Companyにおいて初期アメリカの出版事情についての一次資料を調査した。夏休暇期間中に収集した一次史料を整理し二次文献を補いながら、今後の調査に関する計画を再検討した。9月21日に東洋学園大学にて開催された日本アメリカ史学会年次大会で、19世紀前半の西半球世界観と題されたシンポジウムに参加し、「3つの革命とジェファソンの『自由の帝国』」というテーマで報告する機会を得た。印刷文化との関係でもジェファソンの『自由の帝国』の理念をアメリカ市民がどのように受容したのか、今後の研究課題としたい。 秋学期には、関連資料の収集と重要文献の整理と並行して、10月初めに東京大学の総合図書館でジェファソン関連の資料を閲覧し、11月下旬には再度米国での現地調査を行った。5日程度の短期間ではあったが再びフィラデルフィアに赴き、18世紀末から19世紀にかけてのフィラデルフィア、ニューヨーク、ボストンなどの建国初期の主要な出版業者についての史料を閲覧・収集した。なかでも、1802年にニューヨークで開催された第1回アメリカ文芸フェアーについての一次史料は、アメリカの出版業者の全米的な協力関係や新共和国の発展への出版業者の貢献をみる上できわめて重要かつ興味深いものであった。 女流史家に関しては、サラ・ヘイルやエリザベス・エレットの著作を閲覧・収集できたものの、彼女等と出版業者・出版社との関係にまではまだ十分に調査できていない。今後は女流史家の著作のみならず、彼女らが19世紀前半の印刷文化の変容過程に及ぼした影響についてもより詳しく検討していきたい。なお、この調査の一部は、論文の形で早期の機会で出版する予定である。
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