本年度実施した研究は、調査対象の鉄製品を釘様鉄製品に加え棒状鉄製品、紡錘車、釣針、錫杖状鉄製品、小札などについて、形態、組成、出土相関関係を調査し、さらに組成分析結果においてもなんらかの相関関係が見出せるかどうかを検討した。実際、鉄製品の組成分析をおこなってみると、意図した結果をえるためには化学組成分析にはまだ不十分な問題があり、分析結果を解釈するにはかなり限界があることがわかった。マクロな組織観察からは製造工程中に生じたであろう作業内容が理解できる痕跡が判別でき、使用された鋼素材の種類や異なる鋼が使用されたかどうかなどを識別できる有効な方法であることがわかった。紡錘車の製作方法、鍬先、鉄斧の刃部とりつけが推定できる好結果がえられた。 分析調査した青森県東北町明美遺跡出土の釘様鉄製品は、鉄斧とともに住居内からおよそ35~6本一括束になって出土している。これは、北海道モイ遺跡やカンカン2遺跡出土の釘様鉄製品と類似し、釘様鉄製品が再加工素材として北東北、北海道に流通出回っている証拠となる貴重な資料となった。出土する製造過程の未成品釣針などからこれらが加工された製品と推定できる。前年度課題となっていた、搬入経路については、岩手県南の資料から大竹廃寺出土の釘などが類似し、官衙・寺使用の建築廃材が流出していることが推定できた。 本研究の本題である、禁鉄モデルでエミシの鉄の実態を解明できると思われる好資料は、8世紀の北東北に存在した小札があげられる。青森県おいらせ町、根岸(2)遺跡住居内出土の小札を調査、分析をおこなったが、173枚散在する出土状況からすでに甲としての機能は認められず、当地で8世紀に小札穿孔技術が認められず、当地で製作していたとも考えられないので、なんらかの別の目的、鉄素材あるいは褒賞品などとして搬入された可能性が高い。鉄素材だったとすると、まさに「甲胄はエミシの農具に造り変えられている」(類聚三代格)を裏付ける資料といえる。再生加工の素材として、古鉄製品が組織的に流通していることが推測でき、エミシの鉄製品の源になっていたことは間違いないであろう。
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