本研究は、日本の国家形成期における対外交流の実態を、渡来系文物の検討を通じて把握しようとするものである。検討の対象とした奈良県五条猫塚古墳は、蒙古鉢形冑をはじめとする渡来系要素の濃い副葬品の出土で有名な五世紀の古墳である。 採択以来、この古墳から出土した鉄製武器・武具類、農工具、実態不明の鉄製品などの実測図作成およびX線写真撮影を進め、約40年前の報告書では不明確であった点や現在的な視点で再検討をはかってきた。これは本資料が対外交流の実態を検討する標識資料であると考えるためであり、その情報を確固として議論の出発・帰趨点を構築するためである。 作業は今年度をもって、検討の若干の鉄製品を除き、ほぼすべての実測図を作成することができた。同時にこれまで遺物台帳やデータベースを作成したため、出土品の全体像や出土地点の把握が可能となり(石棺内部と外部の両方から出土品が混じっていた)、実態に即した議論がようやく可能な段階に到達した。さらにこれまでの活動を見直し、今後の成果報告に結び付けるための検討会を行い、五條猫塚古墳の抱える問題点を浮かび上がらせることができた。 本年度はさらに一歩進めて、対外交流を理解するための類例や周辺情報を収集し、検討することも目標としていたが、これはメンバー内での進捗に差があり、統一的な成果を揃えるまでには至っていない。これまでの活動により蓄積された膨大な情報および研究成果は、別途に経費を獲得した上で正式報告書として刊行する予定であるが、3年間の成果の一部を学会発表および奈良国立博物館の研究紀要で報告してひとまずの総括をすることにした。
|