研究概要 |
快適で魅力あるサービス空間を実現するには,生産環境と生活環境の両面で適切なサービスが供給される条件をととのえる必要がある。そのために本研究では,まず生産面について,地場産業地域におけるサービス経済化の現状を追究した。岐阜県多治見市で実現した美術館の建設とそこを拠点とするまちづくり運動を取り上げ,強力なリーダーシップのもとで多様なサービスが見学者のみならず,地域住民に対しても供給されていることを明らかにした。つぎに海外の事例として,シドニー港湾地域における産業のサービス経済化を調査した。産業構造の高度化や港湾機能の移転にともない,既存の港湾地域が観光地域に大きく変貌していく過程を追究し,企業,行政,観光客がどのような役割を果たしているかを明らかにした。見事に再編された港湾地域では魅力的な空間が創出され,国際的な観光スポットとして高い評価を受けている。 つぎに生活環境面に関する研究であるが,これについては消費行動をキーワードに理論的な研究を中心に行った。これまで地理学では,地域的条件に応じて消費者の購買行動は異なっており,地域に固有の消費パターンが形成されると考えられてきた。しかし技術革新がおおいに進んだ今日,グローバリゼーションも作用し,消費の地域差が薄れつつある。世界が同じ市場によって包摂される状態が日常化しつつあり,どのような商品やサービスを手に入れたかによって,消費者のアイデンティティが推測できる。地域が消費パターンを決める時代から消費が地域パターンを決める時代へと状況が変わってきたといえる。このような時代状況のもとで魅力的な生活空間を実現するには,なによりも供給されるサービスの質を高める必要がある。模倣やコピーではなく,本物のサービス,手応えのあるサービスが供給される空間でなければならない。こうした点に関する詳細な考察は,著書『社会経済地域論』の中で展開されている。
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