本研究は、歴史地理学の立場から日本の古代国家が成立する直前の時期である古墳時代の九州地方を主たる対象地域として、古墳文化の受容のありようとその地域的な差を、近畿地方(特に後の畿内)とも比較しつつ探ることを通じて、それぞれの地域性にアプローチしようとするものである。昨年度に引き続き、九州前方後円墳データベースを作成するとともに、熊本県と佐賀県、大分県を中心に、また九州と比較対照するために近畿地方では近江の湖東及び湖西地方、河内の百舌鳥古墳群、奈良盆地において現地調査を実施し、主要前方後円墳の立地と現況について把握した。 また、近畿地方に関しては21世紀COEプログラム「古代日本形成の特質解明の研究教育拠点」で作成したDBを一部利用してGISにより、試みに副葬品と規模に関して時期別に地域的な特色や傾向についてGISにより分析、検討を行った。その結果、画文帯神獣鏡は奈良盆地(大和川流域)と近畿中央部の前方後円墳からの出土のみで、三角縁神獣鏡が播磨西部揖保川流域で3か所のほか園部盆地、湖東平野にもみられるのに対して、範囲がより限られていること、石製腕飾類の分布は近畿中央部に集中し、碧玉製腕飾は分布がより限定的であること、大和川が河内平野に出る位置とそれに連続する地域に所在する玉手山古墳群から古市古墳群にかけての地域における大型前方後円墳の築造が、奈良盆地を含めた他地域には見られないほど長期間にわたり継続すること等が指摘でき、GISの活用が有効であるとの見通しを得ることができた。 現地調査の結果、前方後円墳は眺望の良好な場所に立地するものが大多数であることが改め確認され、前方後円墳相互の見通し関係にも注目する必要を再確認した。
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