研究概要 |
本研究の目的は,産業集積地域の概念を,産業集積をめぐる最近の実証的な知見を基にして,再定義することである.なかでも,産業集積をめぐって,これまで等閑視されてきた知識創造(イノベーション)における「域外連関」を着目して再定義を試みることに主眼がある. この目的解明のために,平成20年度は,第1の理論的研究では,昨年度に得られた知見について,最新の研究成果と照合させる作業を行った.産業集積地域に関する研究では,知識創造(イノベーション)側面からのアプローチ近年増加傾向にあり,それが産業集積の新たな形成や再生との関連で行われている一方で,産業集積地域の概念化に関連しては注目されていないことが引き続き明らかになった. 第2に,上記の仮説を実証的に検証する作業を進めた.特に今年度は,自らの一連の実証研究と,従来の実証的知見とで不足している部分について,新たな実証作業を行った. その結果,昨年度明らかにされていた,知識創造の域外連関と生産や取引の域外連関との間には,明瞭な相関があるという知見については,次のような限定を伏した上で,産業集積地域の再概念化をする際に有効な指標になりうることが明らかとなった.すなわち,再概念化にあたっては,企業規模や業種,研究開発の沿革などの産業集積を構成する企業の特質によるという限定が必要である. また,生産における域内・域外連関には,階層性がみられる.すなわち,研究開発など知識創造に熱心な企業に関しては,生産における域内・域外連関ともに活発であり,どちらかといえば域外との連関が主要になってきている.産業集積地域における域内・域外連関という側面からみると,こうした企業は,域外の需要を域内もたらす役割を果たしている.しかし,こうした企業群は,産業集積地域において,まだまだ少数派である.これに対して,多数派は依然として,域内連関に重点がある.とはいえ,こうした企業群でも,域外連関に積極的な層と,域内連関にとどまる層とが分かれてきていることが明らかになった.その際,域内・域際において,企業間ネットワークや社会的ネットワークへの関与に積極的な企業ほど,域外連関もさかんであった.
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