研究初年度となる平成19年度の調査の中心は8月中旬から10月初めにかけての約2ケ月間のシリア共和国のアレッポにおける現地フィールドワークであった。アレッポ大学の日本文化研究センターを調査拠点にしながら、参与観察や聞き取り調査、そして関連文献と音楽映像資料の収集が主な活動であった。 政治制度的に世俗主義を掲げるバース党に支配されるシリアという文脈にも拘らず、イスラーム復興は顕著に見られた。アレッポにおいて、イスラーム的権威者であるシャイフや音楽関係者に対して宗教と音楽についてインタビューをおこなった。また、大学生に対しては、アンケートとそれに基づく聞き取り調査を実施した。 またシリアにおける学校音楽教育の現状を調査した。音楽教師の数が絶対的に不足している当地の教育現場では音楽の授業はほとんど存在しない。JAICA隊員など外部の助けがあって初めて音楽の授業が成立するような場合もある。低い程度の音楽教育が人々の音楽に関する理解の低さにつながっていると思われる。音楽的無教養の度合いは、シャイフなどイスラームに専門的に関わる人たちについてもいえる。これは私が調査開始前に抱いていた疑念(仮説)とも一致するものであるが、音楽に対する否定的な言説は音楽に関する無理解から生じている、といった図式が成り立つようにみえる。 平成19年度の調査の一部は、日本文化人類学会の第42回研究大会(平成20年度5月31日〜6月1日、京都大学)で発表予定である。この発表で現代のイスラーム歌謡についてとりあげる予定である。
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