国際伝統音楽学会(International Council for Traditional Music)の第41回大会(カナダ、セントジョンズ、メモリアル大学 2011年7月)においておこなった研究発表をもって平成22年度~平成23年度の研究内容として報告する。 近現代のアラブの音文化に大きな影響を及ぼしていると考えられる3つの要素を考察した。それらは1)視覚媒体、2)イスラーム復興運動、3)近代的教育、である。1)視覚情報衛星放送を通じて配信されるミュージック・ビデオは、楽曲の音的情報よりも視覚情報に重点をおく。2)イスラーム復興運動の中で伝統的権威が否定されそして伝統的な音楽も否定される。3)近代の世俗的な教育カリキュラムでは、タジュウィードとよばれるクルアーンの朗誦の機会があまりなくなり正則アラビア語の正統的な発音を学ぶ機会が少ない。現代のポピュラー音楽においては、伝統的に重要な聴覚を中心とした音文化から、芸能が視覚的な要素がより重要になってきている。 (平成22年度に予定していたレバノンでの現地調査は政情不安、そしてシリアでもいわゆるアラブの春と呼ばれるチュニジアに端を発した一連の民主化運動の影響を受け、困難になった。このため、現地調査を平成23年度に延期することとし、科研費執行を繰越した。しかし平成23年度においても、外務省安全情報などでは調査予定地域に対して、渡航の延期を求める要請が出されていたため、現地調査は行わなかった。本科研費繰越申請時の研究実施計画には現地調査が困難であるような場合、国際学会での研究結果の発表のための関連費用に充当する旨記入。科研費繰越分は上述学会参加費用とした。)
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