本研究の目的は、宗教が提議する現代社会批判の内実を明らかにし、どのような具体的な社会の再編成をそれが提示しているかを再検討することである。特に多数派であるイスラームではなく、ヒンドゥーにおける近年の運動を基点として比較研究を行うことが本研究の大きな特色である。ヒンドゥーはインドネシアの宗教のなかで最も保守的とみなされてきたのであり、そのヒンドゥーの内部にさえ現代社会への危機意識をともなう批判が出現しているのである。研究実績は以下のとおりである。(1)ヒンドゥー代表機関分裂の過程とその背景の分析。(2)分裂の主な原因は慣習と新興宗教勢力の対立であり、慣習に充足できない人々が特に都市部において多数生まれたことが新興宗教勢力の勃興につながった。そうした人々が生まれた社会的背景には、急速に都市化がすすみ、村落部の地縁に依拠してきた慣習を維持することができなくなっている現状がある。(3)バリ島内部の宗教運動とバリ島社会以外のヒンドゥーの宗教運動の連動。(4)特に大きな影響力を示したランプン州におけるヒンドゥーの拡大過程とその現状。1963年のバリ島アグン山噴火後の移民政策がランプン州におけるヒンドゥーの拡大につながった。(5)連動が起きる要因となったインドネシア国家への社会批判の内実。慣習を利用して政策を実施してきた国家の矛盾が露呈した。(6)ヒンドゥー以外の宗教運動との比較。
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