平成19年度は、平成19年9月6日から9月27日までの22日間タイ王国の首都バンコクと北部の主要都市チェンマイにおいて、シャンの文字文化継承についての調査を行った。調査内容は以下の2点である。 1.両都市におけるシャン系仏教寺院において聞き取りインタビューを行った。バンコクでは仏教寺院がミャンマーから出稼ぎに来たシャン人労働者の集会所となっており、若者にボランティアの教師がタイ語、英語を教える教室も開かれていた。このことから、出稼ぎのシャン人労働者がタイ社会に適応して行くためのノウハウを学ぶ場として機能していることが分かった。一方チェンマイでは、シャン仏教に特徴的な年中行事の開催、シャン文化の紹介をする「寺院博物館」の設置など、仏教寺院はシャンの「伝統文化」継承の場、民族的帰属意識の発揚の場として機能していることが分かった。両都市のシャン系仏教寺院はともにシャン人ネットワークの結節点となっているが、バンコクではタイ社会への適応が重要課題となっており、チェンマイでは民族的文化的伝統継承への意識が強いことから、両者の違いが明らかとなった。この志向性の違いは文字文化継承においても顕著に現れると考えられる。 2.タイ国内で出版または流通しているシャン語教科書の状況を調査した。これらのシャン語教科書をその編纂者・教育対象者・内容によって、4つのカテゴリーに分類した。 (1)第二次世界大戦後にミャンマーのシャン州政府によって編纂されたもの (2)シャン州のシャン人僧侶や地元の在家知識人たちがシャン人の子弟を対象に書いたもの (3)タイ国内のシャン人僧侶や地元の在家知識人たちがタイ国内で育ったシャン人子弟のために書いたもの (4)タイ国内の大学等の高等教育機関の研究者が高等教育機関で外国語としてタイ人学生に教授するためのもの
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