本研究は、東南アジア大陸部のミャンマー、タイ、中国西南部に分布するシャン民族の文字文化の継承と現代的な展開を、主にタイとミャンマーの間で比較研究することを目的としている。このような全体の研究計画の中で、今年度は前年度収集した資料を分析し、2つの論考にまとめた。一つは、タイ北部とミャンマー連邦シャン州での伝統的な在家知識人の役割について論じたものである。もう一つは、タイ国北部におけるシャン仏教の実践の中で、在家・出家双方の文字知識の運用形態について考察したものである。前者はタイの資料を中心としながらも、タイ、ミャンマー両国のシャンの文字文化継承の実態を明らかにし、後者ではタイ国の国境地域という特殊な社会条件化でのシャン文字文化の継承の問題を取り扱った。両論考においてこれまで充分に論じられてこなかった伝統的な文字文化の継承の様態を明らかにすることができた。 シャン文字文化の現代的な展開に関しては、今年度も前年度に引き続き、主としてタイ国北部におけるシャンの文字文化に関する資料の収集と整理を行った。調査は、2009年2月に8日間、タイ国北部のチェンマイ県、メーホンソーン県にて行い、当地で出入手できる印刷された文書(書籍・雑誌)の収集、収集した資料に関する出版地、流通、使用等の状況の把握に努めた。またシャン語教科書、学習書、辞書等の収集も行った。収集された資料は今年度内に整理を終えており、次年度以降、研究成果として発表する。
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