本研究は、フィリピン共和国ルソン島北部山地民のうち、ボントック族、カリンガ族、イフガオ族について、国民国家形成や近代化の影響によって、地域社会にどのような中間集団が形成されているか、中間集団は社会変化にどのような役割を果たしているか、民族アイデンティティはどのように変容しているかという問題を、文化人類学的な野外調査によって明らかにすることを目的としている。 平成19年度は、ボントック族の主な居住地であるマウンテン州と、カリンガ族の住むカリンガ州において、コーヒーや柑橘類栽培など新たな産業の導入と、それに伴う、農業組合など職業集団の組織化進展について調査するとともに、2000年以降、急速に盛んになっている州ごとの文化フェスティバルについて調査した。 特に文化フェスティバルは、州政府と村落住民が連携して新たなアイデンティティを形成する場になっていおり、たとえば、これまでボントック族とカンカナイ族の2民族が居住するとされてきたマウンテン州では、住民の自文化の客体化によって、あらたに5民族という民族分類が主張され、州政府や政府の先住民族委員会もそれを容認するなど、劇的な変化が起きている。それに伴って、文化フェスティバルが、人々が自民族の独自性を強調する場として、ますます盛んになっているのである。平成20年度は、この文化フェスティバルを中心として、他者に対する自文化の表象のしかた、多様性の中の統合の様態などについてさらに調査する予定である。
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