研究概要 |
平成20年度は、フィリピン共和国ルソン島北部山地民のうち、ボントック族、カリンガ族、イフカオ族について、文化フェスティバルを実際に観察調査するとともに、フェスティバルの歴史、内容、組織の様態、表象される民族文化の内容、新たな民族アイデンティティの形成などについて聞き取り調査、および文献調査を行った。ボントックは全城が山地であり、棚田水田耕作という生業も共通している。そこでは地方政府が中心となって住民参加型の運営が行われており、フェスティバルのタイトルもランアイ、すなわち「共食」という共同性を強調する名称になっている。イフガオは州の東が平地でイロカノなど平地民が居住し,中西部の棚田地帯と異なっている。文化フェスティバルは中央政府によって、棚田を観光資源として行われ、トップダウンで実行されている。住民は政府に予算配分を求めることで協力しており、名称も勲功祭宴を意味するゴタッドが使われている。カリンガはイフガオと似た地形で民族構成も似ているが、中央政府と長く対立してきた歴史があり、地方政府主体でフェスティバルが企画されている。名称は口承伝承を意味するウラリムである。ボントックは5民族、イフガオは3民族の下位区分があるが、カリンガは54民族という新たな民族区分を生み出している。今回の調査によって地域ごとの歴史や中央政府との関係、政府の政策への対応の差異が、文化フェスティバルの運営や意味づけの多様性と対応していることが明らかになった。
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