本研究では、瀬戸内海島嶼部における人びとの生活世界の特徴を、「自然と直接出会う生き方」と「自律的な地域システムに根ざした生活」という2つの側面に焦点を当てて解明することが目指されているが、本年度は、岡山県笠岡市の白石島におけるインテンシヴな調査を継続し、岡山市犬島、パラオ共和国コロール島・バベルダオブ島における比較調査によって、海外からの援助や海外移住者からの送金、観光産業化に支えられた島嶼国家についての知見を深めることで、過疎・高齢化のただなかにありながらそれに埋没することのない瀬戸内海島嶼部の生活世界の可能性を把握する方向性を明確化することができた。 1.社会的・経済的周縁化をもたらす構造的な前提の把握:白石島における農業、漁業、石材業、旅館業等の産業基盤に関わる現状を現地調査にもとづいて把握した。 2.歴史的な変遷についての事実の集積:白石島における生活のあり方の変遷を、戦前の自給的生活、高度経済成長期以前と以後という3期に分けて、生業構造、年中行事、教育、観光等の項目ごとに把握した。 3.「自律的な生活システム」を支える人びとの「選択」についての質的データの集積:明治期の山林買収の阻止運動、1960年代の秋祭りの盛大化、白石踊りの伝承の試みのそれぞれについて、そこにある人びとの「選択」を可能な限り詳細に追跡した。それによって、これらの「住民が主体となった取り組み」の成功例においては、運動のプロセスを通して、個々人のばらばらの意見がすべての「島の人間」にとっての問題という枠組みのもとに整理され、たとえ具体的な対応策に関して賛成派と反対派に分かれることになったとしても、そこには「島の人間」というまとまりがしかっりと形成されて、問題の共有が実現されていたことが明らかになった。 4.他地域の島嶼社会との比較:西太平洋の島嶼国家であるパラオ共和国における比較研究によって、島嶼社会に共通する特性とそれぞれの独自性についての調査を開始し、瀬戸内海島嶼部の生活世界の可能性を把握するうえでの研究枠組みの明確化が進められた。
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