本研究では、瀬戸内海島嶼部における人々の生活世界の特徴を、「自然と直接出会う生き方」と「自律的な地域システムに根ざした生活」という二つの側面に焦点を当てて解明することが目指されているが、本年度は、岡山県笠岡市の白石島における調査を継続し、パラオ共和国バベルダオブ島とミクロネシア共和国ヤップ島における比較調査を行うによって、太平洋上に大陸からは隔絶して点在しているという条件のものとで、外部世界からの高い独立性が近年まで維持されてきた島嶼国家についての知見を深め、瀬戸内海島嶼部の生活世界の現状と今後を考える上での「本土」の重要性を再認識することができた。 1. 生業の歴史的変遷における注目点:この地域の産業のなかで、例外的に全国規模の産業動向に組み込まれつつ発展と衰退を見せたものとして石材業があるが、「石の島」として有名な隣の北木島ではその衰退とともに歯止めのない人口流出を経験しているのに対して、白石島では、島のもともとの住民を巻き込むことなく発展したという事情に関連して、その後の衰退も島に大きな傷跡を残すということにはならなかった。 2. 白石島の地域活性化の取り組みにおける「本土」への依存:観光事業や高齢化問題への取り組み等、地域活性化の活動は、組織上は、住民によって自発的・主体的に取り組まれていることになっているが、実態としては、「本土」側の行政の主導による活動になっている。ただし、その一方で、島民が自分たちの地域での暮らしに肯定的な意味や価値を見出すことに結びつくはずの活動に目を向ければ、島全体を巻き込む伝統芸能の継承の運動や島の祭りの維持への試みなどがあり、それらは世代を超えて継承されてきた生活実践とともに、地域システムの持続可能性を考える上でより重要な位置づけを与えられるべきものになっていることが明らかになった。 3. ミクロネシアの島嶼社会との比較研究:パラオ共和国バベルダオブ島もミクロネシア共和国ヤップ島も、大陸からは隔絶した太平洋上にある島で、伝統的にはほぼ完ぺきな「自律的な地域システム」を構成・維持してきたといえるが、近年はグローバル化の波に飲み込まれて、急激な社会変容を経験している。今年度の調査によって、それぞれの地域での生活の基本には、地域の資源に依存した自給自足的な生活がいまだに維持されているという状況ある一方で、家族の海外移住やその移住先からの仕送りの重要性の高まりとともに、生活文化そのものの「本土」への依存という状況が生み出されもていることが明らかになった。
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