中国地域の草葺き屋根職人の存在を確認するために、島根県、岡山県、鳥取県の市町村教育委員会あてに職人の所在アンケートを行った。個人情報にも配慮し、無理のない範囲での回答ができるようアンケートの設計を工夫した。結果として岡山県4カ所、鳥取県2カ所、島根県6カ所について職人の所在が確認された。 広島県の草葺き屋根職人2名に県外への出張仕事の習俗について聞き取り調査を行った。1名は関西を中心にした出張仕事であり、1名は山口県、九州北部を中心にした出張仕事であった。特に山口、九州へは炭鉱住宅の草葺き屋根の更新の需要があり、これに応じるための出張仕事であった。近代産業とのつながりを明らかにすることができた。 筑波大学安藤研究室との研究交流を行い、広島県の現地調査、つくば市域の現地調査を共同で実施した。棟仕上げを中心として大きな技術の違いが見いだせること、組織化の形態が大きく異なることが明らかとなった。技術については「仕事が早くて、屋根が長持ちがする」ような効率的な技術を目指した広島の職人に対して、できるだけ見映えがする棟、軒づくりを目指した筑波の職人の特徴が明らかとなった。組織化については、広島の職人が出張仕事のために2名を基準とする組の体系を作っていたのに対して、筑波の職人は農村共同体の気心の知れた仲間から発生した組織の名残を残していた。広島でも中国山地側の職人は出張仕事をした志和、熊野地域の職人とは異なる技術、組織体系を持っていた。広島県での調査で明らかになった技術、組織の特徴を今後は他県調査での指標としたい。
|