2009年度において自然と社会の関係をめぐる理論研究および海外調査を行なった。 1、 理論研究に関しては、(1)2009年12月12~13日関西大学で開かれた国際学術フォーラム『文化交渉による変容の諸相』のセッション「聖なる水・こころの水-自然と人との相互作用」(4名の発表)に対するコメントを行ない、日本・中国・台湾・韓国など東アジア農耕社会における自然認識め変遷に関する知見を深めた。(2)12月19~20日熊本大学でシンポジウム『自然と社会のインターフェイス』を組織した。全国から集まった研究者9名が発表し、文化/生態人類学・哲学の専門家3名からコメントを頂き、学内外から50人余が参加した。組織運営以外、私は、「聖なる動物の扱い方:チベット仏教社会における自然認識の動態」との題で研究発表を行ない、人類学における人間と動物の関係をめぐる既存研究の問題点を指摘し、仏教とアニミズムの世界観の混交の産物とされる「セテル」現象をいかに理解すべきかに関する考察を行なった。 2、 海外調査に関しては、春季、中国本土最大のチベット仏教寺院、雍和宮で文献収集と聞き取り調査を行なった。新彊モンゴル族の先祖が建設したジョンガル・ハーン国は18世紀までの百数十年清王朝と拮抗したチベット仏教の帝国だった。雍和宮は清の乾隆帝がジョンガル・ハーン国を懐柔するために建立した寺院である。同寺院での調査で3点を把握した。(1)僧侶はモンゴル族出身者が圧倒的に多く、参拝者の殆どが漢族である点。(2)入場者数は毎日数千人を越え、漢式仏教寺院に比べて同寺院は、参拝者にとってより「本物」の寺院と理解されている点。(3)境内で蛇や鳩などの放生(=セテル)を行なう参拝者が増え、この放生の仕方に戸惑う僧侶が多い点。調査で得たデータはセテルに代表される新彊モンゴル地域の自然認識の動態をより立体的に考察するための最適な比較素材になった。
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