住民主導で企画運営される「よさこい方式」の祝祭事例として高知市の「よさこい祭り」、北海道札幌市および上川地区における「YOSAKOIソーラン祭り」、名古屋の「日本ど真ん中祭り」、東京およびその周辺都市における「よさこい系」の祭りを調査対象として、住民参加の展開、参加の社会的効果、運営をめぐる住民間の意思疎通・合意過程、また市民主導の祝祭運営における財政面および行政面の支援体制の在り方について、現地における参与的な観察と聞き取り調査を行なって、よさこい方式祝祭の展開と現状の検討、可能性と展望をふくめて研究の総括をおこなった。住民参加については、「よさこい方式」の最大の特質であった参加の多様性・自由性が、高知以外の事例では、一般的に限定・固定化される傾向にあり、参加者の個性表現や創造性の停滞を招いている状況が明らかとなった。周縁的な住民が主役となって祝祭を通して公共圏ともいうべき市民社会領域を創出して、「よさこい方式」の祝祭が地域社会に定着し、歌舞などの技能面での洗練、運営面での制度化が進み、全体として市民意識の高揚と成熟を高めてきた半面、祭りへの参加意欲や情熱、個性の表現という「よさこい方式」の特質に陰りが見られる。その背景にはコンテスト性の強調とこれに伴う専門性・技術志向・財力偏重等が全国的に共通してみられる。祭りの定着・成熟とは、現代社会の広範な各セクター、側面と緊密な連携を深めるとともに、その全体像は見えにくくなっており、関与者間の意思疎通と展望の共有をいかに成し遂げるかが新たな課題として浮上している。住民間の対話と合意形成・調整過程は、地域の社会開発・活性化に直接関わる広義の開発人類学・Action Anthropologyの課題でもあり、研究者も市民の一員としてファシリテーターの役割が期待されている。
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