1974年以来継続してきた西表島の地域研究の中で、地元との協力体制のなか収集記録できだ西表島の地名はシノニム等を含み1300項目に達している。とりまとめにあたって、複雑な方言の発音の記述に調査もれがあることがわかったため、再度の録音などによる確認をフィールドワークによって実施することとした。正確な発音を添えたテータベースを構築することは、学問の進展にとっても、地域の活性化にとっても基本的に重要な取り組みである。 これまでに西表島の地名についての伝承を、申請者に語って下さった話者のみなさんの多くが故人となり、若者たちは多くの地名伝承とは無縁な暮らしのなかで、島の歴史や自然について知る機会を永遠に失おうとしているよりに見える。この調査は、島の文化の後継者たる人人とともに、あらためて西表島の各地を踏査することで、現場にたって地名伝承を再確認し、継承をめざす、という実践的な意味ももっている。 この研究の実践を通して、(1)ともすれば、大きな島の語源考のような、思弁的な袋小路にはいりがちな南島地名研究を科学的分析的な水準に高めるとともに、(2)地域文化の伝承者を育てるという、二重の目的が果たすことを企図したのであるが、前者の目標はほぼ達成され、後者についても西表島の現地での講演会の開催などを通して、若者たちを含む地域の多世代の住民に、地名をはじめとする伝承研究のすばらしさと重要性の一端を伝えることができた。
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