ケニア東南部の山地農耕民タイタ人の世界に関する文化人類学的研究の一環として、デジタルメディアを介した発話記録の収集とその分析を通して、文化人類学的視点からタイタ語のコーパスの動的側面を明らかにすることが本研究の目的である。平成20年度の継続研究として、既に採録が終わっている語彙、文法、文字化された資料との対応関係に齟齬が生じないように再チェックを行い、その結果をタイタ人の調査協力者とともに最終的な検討をおこなった。また、儀礼と世界観をテーマとした「語り」をタイタ語による発話記録として収録をおこなったが、タイタ語のシナリオを書いてそれに即して発話記録を採録するという段階までには至らなかった。そこで、ケニア国独立以前に小学校で使用されていたタイタ語のテキストを入手し、音声言語による発話記録として収録するとともに、スワヒリ語による対照訳を付した。ケニアでの調査研究は、現地調査協力者の最終チェックを受けることを目的とするため、当初の予定を半年延期し現地の状況に照らして2010年3月におこなった。 以上、平成13年度~18年度にかけて科学研究費補助金によりおこなってきた語彙と文法構造に関する研究に、新たに3ヵ年にわたる研究を継続しておこなうことにより、タイタ語のコーパスの全体を視野に入れて研究することができた。特に、発話記録のデジタル化をおこなえたことは、彼らの思考体系を反映させた記録方法の中に、言語を記録する意味があると考えられることから、危機言語の記録方法としての一つの可能性を提示できたのではないかと考えられる。
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