本研究の目的は(1)華僑史の掘り起こしと記録化、資料の収集と展示、有形文化財の保存と再建、無形文化財の維持と創出にかかわる華僑の意識、(2)各地の中国人墓地の実態調査を通じ、墓地と華僑、地元との関係、地域間の差異とその原因を明らかにすることである。今年度は以下の調査研究を行った。 1.2008年7月、曽と王は函館にて共同で函館華僑総会会長、中華会館理事長・陳上梅氏への聞き取りを行った。同時に、函館一のバーガーショップを営む王一郎氏、餃子店を営む劉清楽氏の聞き取りを行い、地域に根ざす経営姿勢について理解を深めることができた。 2.2009年2月、王は華僑伝統文化の再構築の事例として、長崎新地中華街の新しい世代や地元商店街、自治会組織を対象に、地域祭りの変容と継承について調査した。1994年に中華街の灯籠祭をベースにして始まった長崎のランタンフェスティバルにおいて、華僑が果たした役割が大きい。15年を経た今日、新地中華街や地元商店街では経営者の世代交代が進むなか、祭りによって築かれた、華僑と日本人の枠を超えた地域の横のネットワークが機能し、イベントの一層の充実や会場の拡大など、新たな展開を見せていることがわかった。 3.2009年3月、曽は京都府宇治市万福寺内の華僑墓地の実態調査および墓地を管理する京都華僑総会の事務局長に聞き取りを行った。関係する文書の閲覧や石材店の聞き取りにより、墓地の沿革、利用形態、埋葬方法(土葬)などが明らかになった。 4.2009年3月、曽は京都と横浜において、地元の新聞などに掲載された華僑関係の記事を収集している老華僑に聞き取り調査を行い、文献の複写を行った。
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