日本華僑社会では同化傾向が進む2世、3世が社会の担い手となり、地元社会に開かれた集団になる一方で、文化資本としての伝統文化の共有を確認することによって、集団としての結束力の維持・強化、個人としては華僑としてのアイデンティティ確立を図ろうとしている。本研究の目的は、現地調査と文献研究に基づき、伝統文化の再構築という視点から日本華僑の動態を考察することにある。 1.王維は九州華僑のライフヒストリーに関する補足調査及びデータ整理を行い、華僑の若い世代と地域社会との関係という視点から、長崎ランタンフェスティバル期間中に調査を行った。調査の結果から次のようなことが明らかになった。華僑間に結ばれた姻戚関係は華僑の社会的ネットワークとして大きな役割を果たしてきており、華僑の個々の生活史は華僑の歴史や社会、文化の変容と再構築を理解する上でも重要な鍵だと思われる。しかし、現在これら伝統的な社会的ネットワークは大きく変容し、世代交替や日本化によって姻戚関係の繋がりが弱くなる一方で、長崎のように地域社会に根付いた地縁関係の役割が強くなっている。地域の祭りは華僑の新たなネットワーク作りに大きな役割を果たしており、華僑の若い世代が祭りに参加することによって新たに構築されていく縦(世代間)と(地域社会との)横の繋がりも見られるようになった。 2.曽は主に移民社会にとっての「死」の処理という観点から華僑・華人の埋葬地について調査した。黄檗宗本山宇治市万福寺内の京都華僑霊園では、昨年の調査に引き続き各区画の形態と特徴、埋葬法、墓碑、墓誌などを調査し、時代別、出身地別に分析するための基礎データを収集するとともに、墓地の使用権をめぐる黄檗宗本山と京都華僑の間で起こった訴訟事件の書類分析を通じ、霊園が華僑の共有財産と位置づけられていることが確認できた。また、江戸時代から黄檗宗末寺として関帝を祀っている関係から、明治時代から華僑の信仰を集めてきた大阪市天王寺区の清寿院を調査し、本院が京都華僑霊園ができるまで大阪華僑の菩提寺として機能していたことが確認できた。
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