本研究の目的は、近代大和における産育に関する習俗を、大正4(1915)年に編纂された「奈良県風俗誌」と呼ばれる膨大な史料群から明らかにし、人々の死生観や子どもに対する意識を浮かび上がらせることにある。本研究が近代大和に注目した理由は、「奈良県風俗誌」のように、県下全域で同一の質問項目に従って実施された調査報告は全国に類がないという点にある。 この研究が実現すれば、広く日本の近代における産育習俗の内容と、その意義を分析する際の詳細かつ貴重な資料を提供できることとなる。それは、日本の産育習俗の近世から近代への変容を明確にする研究に貢献できるばかりでなく、現代の医療環境における出産・育児に関しても、批判的に検討する際の資料として活用できると言えよう。 具体的な研究成果は、現存する「奈良県風俗誌」80冊の、出産および育児・子どもに関する記述を翻刻し、基礎的な資料集を刊行することにある。さらに、聞き取りやアンケート調査の方法を用いて、明治・大正期から現代までの出産・育児に関する習俗の変遷も明らかにしていく。その成果を用いて、現代社会のよりよい出産環境を創り上げる手がかりを提示するのが、研究の最終目的である。
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