九州とその周辺に存在する奄美群島・薩南諸島・五島列島・壱岐・対馬等の多くの島嶼は、古来、国内外を巡る船の航路上に位置し、人や物や情報の頻繁な往来を通じて島外との密接な交流・交渉が見られたが、反面、外部との隔絶が生じ易い地形的制約から、一定の自律性が醸成されていった。 この地域の島嶼では、それぞれの地域毎に特徴的な民俗芸能が分布しているが、それらは、島外と共通しつつも、島毎に細かな差異も認められ、こうした共通性と独自性が複雑に入り組んだ民俗芸能のあり方は、開放性と自律性と地域性が交錯しつつ展開してきた、これらの当初の歴史的環境との関わりにおいて形成されたことを窺わせる。 本研究ではこうした問題意識に基づき、九州とその周辺地域における島嶼に伝わる民俗芸能について調査を行い、その実態を明らかにすると同時に、それぞれの島嶼の歴史的・文化的位相や地域のコミュニティの今日的変容との関連等の異同にも配慮しつつ多角的に検討を行い、島外と交渉・交流してきた開放性・島故の自律性・「異国」に接する境界性の交錯の中で、歴史的に形成され、伝承されてきた、それぞれの島の民俗文化としての、この地域の民俗芸能の様相を解明する。
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