ポスト社会主義ユーラシアの遊動生活者にとっての財とその所有をめぐる経験と認識について、貴金属と家畜に焦点をあてて検討する研究計画の初年度である本年度は、モンゴル国の金銀鍛冶師に関する本格的なフィールドワーク、カザフスタンと中国内蒙古自治区での予備調査、これら調査で得られた資料分析・整理のための研究活動を実施した。その詳細は以下のとおり。 8-9月、定住化政策の浸透したカザフスタンの農牧地域にて、牧畜実践に関する現地調査をおこない(総合地球環境学研究所の研究プロジェクト予算による)、首都アルマアタでカザフの銀製品に関する文献資料を収集した。また社会主義の痕跡を映像に記録した。これらの調査成果を地球研で口頭発表、地域研ニュースレターに執筆するにあたり、中央アジア現代史、映像技術、映像人類学に関する文献を収集した。 11月には中国内蒙古の区都フフホト市とモンゴル国の首都ウランバートル市で1カ月のフィールドワークをおこなった。フフホトでは都市化、漢化の影響でモンゴル的銀製品についての知識が薄れ、モンゴル国からの出稼ぎ者が生産に従事していた。ウランバートルではチベット寺院の医師兼僧侶から貴金属と身体の関係について聞き取りをした。金銀装飾品店が集中する地区では約30の小売商の仕入れ傾向を調査した。近年の傾向として、装飾品のデザインと仕入れ国の多様化、国内産品割合の減少、小売商間の品揃えの均一化がみられた。また6名の鍛冶師から技術の習得過程を聞き込み、うち1人が指輪を完成する行程を映像に記録した。その成果は北方ユーラシア研究会で発表した。なおウランバートルではモンゴル国に住むカザフ・ディアスポラすなわち体制変化以降カザフスタンに移住し、戻ってきた1家族の暮らしの変化について聞き取りをおこなった。 以上は、社会主義/ポスト社会主義の時代とその地域的・文化的な多様性と普遍性を探る試みの第一歩である。
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