本年度の研究活動は次の3点である。すなわち、(1)物質文化に焦点をあてたポスト社会主義ユーラシア牧畜諸地域の多様性と普遍性の解明、(2)領域横断的な研究ネットワークの構築と研究資料の共有化への始動、(3)モンゴル牧畜地域の動態に関する民族誌的研究の総括と成果公開、である。 研究方法としては、海外調査を来年度に繰り越し、文献研究、これまでに収集した資料、とくに写真と映像資料の重点的に分析した。各活動について以下に述べる。 (1)文化人類学会(5月、京都大学)で2つの発表をおこなった。モンゴル国および中国のモンゴル人による銀製品をめぐる観念と利用実践について口頭発表するとともに、民族誌映像「モンゴル国の銀鍛冶師による指輪づくり」を製作、発表した。翌年1月には東北大学でのシンポジウムにて上述の民族誌映像を用いてモノの終わりと再生に関する試論を発表した。2月にはこれらを論文にまとめ、京都大学GCOEプログラムのワーキングペーパーとして発表した。 (2)京都大学地域研究統合情報センター共同利用プロジェクト構想委員会予算により、東アジア地域を研究対象とする多分野の専門家13名からなるモノ研究の共同研究会組織、運営し、3回の研究集会を開催した。本活動はモノ研究に関する人的ネットワーク構築の礎となった。 また昨年度に引き続き、乳利用に焦点をあててユーラシア地域の多様性と共通性を解明する科研共同研究(代表者、平田昌弘)の連携研究者として、当該地域の牧畜の特徴を比較文明史的な視点から多分野の専門家とともに検討してきた。本グループは、乳加工プロセスの空間分布と時間的連続を座標とする公開データベースを構築中である。 (3)これまでの研究成果を総括し、『現代モンゴル遊牧民の民族誌』として発表した。人類学分野内部での流通を念頭において執筆してきた論文を、多様な分野の広範な読者を想定して再検討する作業をとおして、モンゴルという地域と牧畜という生業の特性について得た新たな知見を盛り込むことができた。また研究成果の公開における写真資料利用の重要性を痛感し、映像・写真資料を徹底的に整理した。
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