本年度は、11-13世紀の神聖ローマ帝国にフランス型のシャテルニー(城主支配領域)が一般的に存在したことを、城塞の「付属物」と中心的な視角としつつ、史料に即して明らかにすることに取り組んだ。依拠した史料は皇帝・国王の証書集=『ドイツ史料集成』と地方史の証書集である。また考察対象とした地域は、当時神聖ローマ帝国を構成したドイツ、イタリア、ブルグントの3つの王国である。 その結果、以下の諸点を明らかにした。(1)元来、付属物は司教都市、教会、修道院、礼拝堂、村落、国庫領、荘園、水車等様々な主体物に付属する所領や支配権的権利の統一体であった。(2)その後城塞が11世紀以後本格的に登場した段階になると、付属物は城塞の周囲に位置する所領と支配権的権利との統一体ないし城塞支配権=支配領域、つまりシャテルニーとしても現れる。(4)証書の「城塞を付属物と共に」の記述が皇帝・国王証書や地域史の史料集の中に無数に登場する。(5)付属物の用語以外に、dominium、tenementa等シャテルニーを直接に意味する用語もまた史料に頻繁に登場する。(6)史料において、しばしば単に城塞名だけが記述されている場合には、城塞が付属物を欠いているのではなく、城塞名だけですでに城塞のヘルシャフト、つまり城塞周囲の所領と支配権、つまりシャテルニーを表現している。 以上6つの結果により、中世の神聖ローマ帝国に城塞支配権=支配領域(シャテルニー)が一般的に存在したことを解明した。この研究成果は11-13世紀をシャテルニー段階として把握しうる道を開くものであり、従来日本とドイツの歴史学・法制史学において未解明の問題を解決することに通じる意義をもつ。22年度はフランスのシャテルニーとの比較をも視野に収めつつ、シャテルニー内部の権力構造にも考察を広げたい。
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