研究実施計画に従って、東京・京都をはじめ各地の図書館・史料館等に架蔵される未公刊史料を採訪調査するとともに、古書店等を通じて史料・文献類を購入し、江戸時代幕藩の法実務を担った法曹的吏員の制度とその活動実態を窺うべき史料の蒐集に力を注ぐ一方、初年度に蒐集した史料の整理・分析作業を進めた。採訪調査による未公刊史料の蒐集は、今年度も江戸幕府法関係史料に重点を置き、藩法関係史料については初年度に調査した金沢藩の追加調査を行うに止まった。今年度蒐集することができた史料は、筆写によるもの(釈文)が400字詰原稿用紙約325枚、電子複写約240枚、マイクロフィルムからの引伸印画約1210枚、デジタルカメラ撮影約2110コマにのぼる。これらに基づく主な成果として、(1)江戸幕府の主要な法曹的吏員の一つである評定所留役について、従来不精確であった官制史を再検討するとともに、その法実務の実態を日常的業務のレベルにまで立ち入って究明した。現在、これを論考にまとめつつある。(2)初年度に内容の検討をほぼ終えていた、江戸幕府北町奉行所備え付けの「敵討帳」の写本について、その全文を翻刻し、解題的な論考を付して公刊した。寛文10年(1670)に始まるこの記録は、江戸幕府法制度の運用実態を窺うべき先例・判例集の類で公事方御定書の成立(1742)以前に遡るものがきわめて乏しい現在、敵討・妻敵討という私的刑罰権実現の手続とその実態を知りうる貴重な史料であるとともに、定型化した法的文書の作成・保存という法実務が既に17世紀後半には確立していたことを具体的に示すものである。
|