本研究の目的は、明治前期の民事手続き法から1890年民事訴訟法編纂、そしてそれが運用される明治 〜大正期を中心にして、西欧型民事訴訟法制と近世以来の伝統的手続き法観念、この両者がどのように相克・融合して、近代日本の民事訴訟法制の特徴を形づくっていったかを、判例・訴訟実務と立法作業との相互往復分析を通じて明らかにしようとすることである。こうした目的のためには、立法資料の分析と実務・判例の分析を重ね合わせることによって、伝統的手続き法観念と西欧型手続き法制との間の相克・融合が判例・法実務のなかでどのように展開し、それが立法作業のなかにどのように反映され、新たな制度形成・創出過程のなかでそれぞれがどう再定置されていくのかの分析が必要である。こうした観点で、おもに1890年民事訴訟法の改正作業の関係史料を国立公文書館・国会図書館憲政資料室で収集し、そうした資料のうちとくに改正案策定に関する議事録の検討を中心に行った。本研究課題に直接関わる研究発表としての実績は上げるに至っていないが、昨年度に引き続き、上述のように基礎作業としての立法資料と判例実務史料の論点毎の整理作業を行った。なお、本研究課題に関連して、1890年民事訴訟法が実施されていた明治後半期の全国弁護士団体「日本弁護士協会」の機関誌「録事」の掲載記事を整理し、「日本弁護士協会録事:明治編解題設立期の日本弁護士協会」「1897〜1907評議員会・総会・理事総会での提出議題一覧」(いずれも岩谷十郎・村上一博・三阪佳弘(共編著)『日本弁護士協会録事 明治編 別巻』ゆまに書房、2008年所収)としてまとめ、そのなかで、弁護士側から提起された民事訴訟法実務の論点テーマを抽出・整理した。
|